都会的で洗練された赤坂の一廓、春先の風に吹かれて、また一つ音楽のつぼみがほころびてゆく。会場の仄明るい光の中、そこに集うオーディエンスの穏やかな高揚感が空気を震わしている。バンドによる演奏が一歩を踏みしめるように始まり、陽気な空気に安らぎの色を注す。2017年3月25日に行われた、川元清史Live2017~Smooth Jazzとセイロンティーのマリアージュ~「HIGH TEA LOVE」のライブレポートをお届けする。

2017.3.25 「HIGH TEA LOVE」 セットリスト
1.Shake Hands
2.By The Time This Night Is Over
3.Love of My Life
4.Quiet Storm
5.Winelight
6.Tonight I Cerebrate My Love ( duet with 山﨑真衣子 )
7.Always ( duet with 山﨑真衣子 )
8.Up Where We Belong ( duet with 山﨑真衣子 )
9.Affection
10.Nothing’s Gonna Change My Love For You
11.You Are My Lady
12.Endless Love ( duet with 山﨑真衣子 )
13.最後の雨
ーアンコールー
14.歓送の歌
15.If Ever You’re In My Arms Again

Vo.川元清史 Pi.武田淳也 Sax.神谷悦子 Ba.Tom Dr.本間裕 PA.さくら
紅茶ソムリエ:磯川裕幸 紅茶アシスタント:原彩  色彩料理家:越川純  カメラ.中村真奈

1人1人のオーディエンスと握手を交わし、登場した川元清史のライブは「Shake Hands」でその幕を開けた。ライブの序盤、昨年11月にリリースされた新曲「Love of My Life」では、直球の愛が歌われる。その真直ぐで柔らかな声と伸びやかな旋律に乗って、オーディエンスは何処か別の世界へと連れ出されるようだった。

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「HIGH TEA LOVE」という素敵な響きを持つ今回のライブ。その名の通りお目見えしたのは、紅茶ソムリエ・磯川裕幸氏が手がけるセイロンティーだ。磯川氏は自らスリランカに赴き、農園からの直輸入を行うUNA TEA AOYAMAの代表も務める。ライブが始まる前に、ウェルカムドリンクの紅茶のカクテルをいただいた。氷できんと冷えたカクテルと、1枝のローズマリーが芳しい。2杯目には磯崎氏の推薦、13番FBOPF・EXSPをいただいた。アラブの王族に賞玩されるこの紅茶は、味わうほどにその香りの深淵へと私達をいざなう。王がこの銘茶に陶酔するのも無理はない。
( 極上のピュアセイロンティーについてお話しする紅茶ソムリエ磯川裕幸氏 )


( ウェルカムティーカクテル )

そして、もう一つライブに色を添えたのは、色彩料理家・越川純氏が手がけるアペタイザー。越川氏はパリにてフルーツカッティングのデモンストレーションを行った経歴を持つ。キッシュロレーヌ、キャロットラペ、彩り野菜のサラダ、ジャガイモのアンチョビ風味、そしてLOVEイチゴが醸し出す賑やかな世界には、味の魔法が仕掛けられている。何より、ハート型にカッティングされた愛らしいイチゴには遊び心をくすぐられた。


( 色彩料理家 越川純氏による旬野菜のアペタイザー「High Tea Set」)

コンサート中盤ではデュエットによりライブの表情が一変する。今回は数年来の友人である山崎真衣子を迎え、「Tonight I Celebrate My Love」や「Always」などのブラック・コンテンポラリーの名曲で会場を圧倒した。2人の声の調和といったら、筆舌に尽くしがたいほどである。声は弾み、追い越し、追い越され、どこまでも伸びてゆく。包み込むように、愛らしく透明な山崎真衣子の声に魅了され、会場からはもう一度デュエットを歌って欲しいとのリクエストが寄せられた。その要望に応え、「Endless Love」が披露される。“ロマンティック”だけでなく、その盛り上がり方も素晴らしかった。

また、Smooth Jazzテイストを押し出したサックス・神谷悦子との共演も見逃せない。その温かみのある音色も音というよりはむしろ声となり、悠々と歌うかのようだった。歌声と音色が互いを引き立て合い、やがて1つになってオーディエンスを包み込む。楽器の音色と声の境目が消える、幻のようなSmooth Jazzだった。

その後は、ゆるやかに育ててゆく愛を歌った「Affection」、川元の敬愛するフレディ・ジャクソンの「You Are My Lady」などが続き、フィナーレは「最後の雨」で飾られた。10代の頃から共に歩んできた歌である。失恋の思いを綴るこの歌は、言葉以上の重みがあり、言葉で描ききれない情景は、音楽の紡ぎ出す色で表わされてゆく。一つの別れの雨に終止符が打たれたら、今度は拍手が雨となって降り注いだ。「歓送の歌」で迎えたアンコールでは、聴く者の心が春の別れと希望の狭間で揺れ動く。そしてラストは「If Ever You’re In My Arms Again」を歌い上げオーディエンスにバラの花束が送られ、ロマンティックにライブは幕を閉じた。

今回のライブの魅力は、あらゆるものが調和し、それでいて色彩豊かな表情を湛えていたことにあるだろう。音楽も、セイロンティーも、アペタイザーも、そこで耳を傾けるオーディエンスの心も、全てが紡がれ、一つの旋律となって春の夜の中に余韻を残して滲んでいった。その一方で、ライブの合間には笑いのこぼれる愉快な瞬間に多く出会えた。毎回のお楽しみである「いいね!な話」では、思わず笑いを誘う場面や、しみじみと聞き入るような話で人の心が通い合った。
川元清史の音楽にはロマンスがあるように思える。自らの描く世界をそこに提示しながらも、耳を澄ます聴き手に、想像の介入を許してくれる。ライブ空間は余白の残されたカンバスであり、聴く者の自由な色で埋め尽くされてゆくのだ。加えて、彼のライブから思い至ることがある。音楽の空間は、言葉を飛び越えてゆく存在の住み処であるということだ。そして、今もある一節を反芻する。「最後の雨」からの一文である。

「言葉に できないのが愛さ 言葉では 君を繋げない」

音楽の奥義はこの21文字に潜んでいるのかもしれない。そのようなことを噛み締めた夜だった。

今回の取材にあたり、後日川元清史からファンの皆様へのメッセージを聞くことができた。

「昨年の11月に「Love of My Life」をリリース。12月に「Tasty Love」自然派ワインとのコラボ」そして今回「High Tea Love」セイロンティーとのコラボ」と4ケ月の間に2公演連続で壮大なショウをお届けすることができました。いづれも満席でたくさんの笑顔を会場で見ることができて本当に嬉しかったです。コンサートというのは、夕陽のようにフェイド・アウトしていってしまうような、ロマンティックで、大切で、そしてもろい想い出だけど、皆さんと分かち合えた「素敵」な空間はコンサートが終わってもいつも僕の胸の中にある。そしていつも誓う「また新曲を作ってここへ帰って来よう。」と。
これから制作期間に入りますが、また新しいラブ・ソングを待っていて欲しいと思います。ご来場いただいた皆様に心から感謝の気持ちでいっぱいです。またお会いできる日を楽しみに頑張ってまいります! 川元清史 」

( 取材 / テキスト 瀬尾愛里紗  写真 / 中村真奈 )

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